がん経験者の治療とお金に関する声

T-PEC Channel事務局 channel@t-pec.co.jpより引用 毎年2月4日は、世界中でがんへの理解を深めるための 啓発活動が行われる「世界対がんデー」です。 そこで今回は、がんを経験された方々の体験談をまとめた記事をお届けします。 【治療×お金5】がん治療と支出~「がんにかかるお金」で押さえておくべき3つのポイント~ お気に入り 検査、手術、入院の費用、通院のための交通費、医療用ウイッグなどなど。がんにかかるお金には、さまざまなものがあります。 これらのがんにかかるお金について、お客さまからご相談や関心が高いのは、「いくらかかるのか?」「どんなものにお金がかかるのか?」「節約するにはどうしたら良いか?」の3つです。 今回は、がんにかかるお金について、この3つのポイントをどのようにアドバイスするかをご紹介しましょう。 << 目次 >> ◆ポイントその1―がんでいくらかかるのか?― ◆ポイントその2―どんなものにお金がかかるのか?― ◆ポイントその3―節約するにはどうしたら良いか?― ポイントその1―がんでいくらかかるのか?― がんにかかる費用については、いくつかの調査が実施されています。 そのうちの1つである厚生労働省のがん患者に対する調査※によると、がんにかかる自己負担額は、年間平均92万円(入院、外来、健康食品等、民間保険料など)。 一方、償還・給付額は平均61万円(民間保険給付金、高額療養費、医療費還付など)で、自己負担額を差し引いた患者の実質的な負担額は平均31万円となっています。 また、がんの部位別の自己負担額(償還・給付額)を見ると、それぞれ、大腸がん126万円(98万円)、肺がん108万円(75万円)、胃がん102万円(65万円)、前立腺がん97万円(40万円)、乳がん66万円(44万円)で、実質的な負担額が、部位によって約20~50万円と開きがあることが分かります。 ※出所:厚生労働省 第3次対がん総合戦略研究事業「がんの医療経済的な解析を踏まえた患者負担の在り方に関する研究」2012年度報告書 http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=201220039A 実質的な負担額を見ると、「え?その程度なの?」と少なく感じられる方もいるでしょう。しかし、これはあくまで年間の費用であり、民間保険などの給付金を考慮した金額です。 がんが進行した状態で見つかり、治療が長引けば、その分費用もかさみますし、がん保険など民間保険に加入していない、支給事由に該当せず受け取れないような場合、実質的な負担額が増えることを十分理解しておく必要があります。 そして、がんというのは、あくまで手術・入院が治療のスタートライン。その後の治療の方が長く、それに関する費用も中長期でかかってくるものです。 以下の図表は、乳がんに罹患した筆者の10年間にかかった費用の一覧です。 筆者(乳がんII A期、右乳房全摘後乳房再建術を行う、ホルモン治療は2年間。現在は年1回の定期検査のため通院)の10年間の費用一覧 総額で約340万円。医療費とそれ以外の費用などを合計したもので、カンタンに言うと、がんに罹患しなかったらかからなかったお金のトータルコストでしょうか。 筆者の場合、告知を受けたのは2009年12月でしたので、手術など本格的に治療が始まったのが2010年。この年が最も費用がかかっています。しかも、そのうち約162万円は乳房再建費用です。 というのも、この当時、筆者が行ったシリコンインプラント(人工物)による乳房再建は保険適用外で、全額自己負担だったからです(注:2013年7月から一部のティッシュ ・エキスパンダー(皮膚拡張器)とインプラント(ラウンド型)、2014年1月からインプラント(アナトミカル型)が保険適用になる)。 10年間で300万円以上の多寡は別にして、これを見ると、おおむね費用が最もかかるのが告知を受けた翌年、いわば実質的な1年目にあたる2010年 であること。その後、再発・転移等がなければ、緩やかに減少していくものの、中長期である程度の費用がかかることなどが分かります。 このように、がんにかかるお金がいくらかについては、がんの部位や進行度でケースバイケースです。ただ、生存率の向上によって治療期間も長期化し、中長期のマネープランが必要であり、保険適用外の治療や、選択する治療法よって高額化する可能性があることを知っておいてください。 ポイントその2―どんなものにお金がかかるのか?― 続いてポイントの2つ目は、がんでどのようなお金がかかるのかです。 お客さまに説明する際、がん治療費は次の3つに分けて考えましょうとお伝えしています。 (1) 病院に支払う医療費…検査費、診察料、治療費、入院費など (2) 病院に支払う医療費以外の費用…差額ベッド代、入院時の食事代の一部、先進医療の技術料、診断書作成費など (3) 病院以外でかかる費用…通院のための交通費・宿泊費、入院時の日用品費、お見舞い返し、医療用ウイッグ・かつら、弾性スリーブ・ストッキング、健康食品・サプリメント、家事・育児の代行サービスなど がんを経験していない方の多くは、がんにかかるお金と言えば(1)の医療費が高額になると思いがちです。 なかには「治療に何百万円もかかるのでは?」と心配される方もいらっしゃるくらいです。 しかし、実際には、健康保険や高額療養費などの公的制度が利用できますし、入院期間も短期化していますので、そこまで多額の費用がかかるわけではありません。 それよりも、(2)や(3)といった費用がかさむケースが多く、例えば、(2)の代表格である差額ベッド代は、平均で1日約8,000円(1人室の場合)ですが、首都圏では1日数万円以上かかる病院も少なくありません。しかも、差額ベッド代は、高額療養費の適用外です。 さらに、(3)についても、薬物治療や放射線治療など、最近のがん治療のほとんどは外来。通院のための交通費など、治療期間が長引けばそれだけかかりますし、治療直後の体調次第で往復にタクシーを利用したり、そのまま宿泊したりといった場合もあります。 患者さんの中には、「〇〇病院の△△先生の治療を受けたい」と、遠方から新幹線や飛行機を利用して通院する方もいらっしゃいます。 治療が長期化しやすく、再発・転移の可能性のあるがんに罹患すると、QOL(生活の質)を向上・維持するために、お金をかける方が少なくありません。 がんや副作用の状態、治療法、家族構成や考え方・価値観などによって、お金のかけ方はさまざまだということです。 ポイントその3―節約するにはどうしたら良いか?― それでは、最後のポイントである、がんにかかるお金を節約する方法についてです。 そのための方法として次の3つが挙げられます。 第一に、がんに「かかる」お金と「かける」お金を分けて考えることです。 ポイントその2で、がんにかかるお金を3つに分けましたね。 この場合、「かかる」お金とは、治療上どうしてもかかってしまう費用のことで、おもに(1)を指します。そして、「かける」お金とは、患者の個々の裁量や判断、状況でかけられる費用のことで、おもに(2)と(3)を指します。 基本的に、治療上必要な(1)を節約するのはなかなか難しいのですが、(2)や(3)であれば、個人の判断で節約することは十分可能です。 例えば、差額ベッド代がかかる部屋を選択しない、抗がん剤治療の副作用で必要なウイッグは割安なものを買う、小さな子どもの世話は、ベビーシッターではなく家族や知人に頼むなどです。 第二に、公的制度を上手に利用することです。 がんの医療費に利用できる公的制度といえば、高額療養費や医療費控除などが代表格です。 このほか会社員の場合、勤務先の健康保険組合独自の付加給付の制度があれば、さらに上乗せされて手厚い保障が受けられます。 健康保険証の券面に記載されている「保険者名称」の「〇〇健康保険組合」に問い合わせて、どのような制度があるか確認をしてみましょう。 第三に、費用のことも医療者に早めに相談することです。 「お医者さんにお金のことを聞いても良いの?」と感じる患者さんは多いかもしれません。しかし、近年のがん医療費の高騰(とくに分子標的薬(注※1)や免疫チェックポイント阻害剤(注※2)などの薬物療法)で、医師といえども患者さんの懐具合を気にせざるを得ない状況になりつつあります。 治療前に、かかる医療費の目安や期間について医師や看護師、MSW(メディカルソーシャルワーカー)などに確認してみることが重要です。 また、「かかる」お金である(1)は節約が難しいと書きましたが、ジェネリック医薬品を利用する方法もありますし、同一の病院で複数の診療科に通院している場合、診察を同じ日にまとめてもらえば、再診料以外に交通費の節約にもつながります。 何事も、できないという思い込みを捨てることです。工夫次第で節約できないことはないはずですし、逆に、お金をかけさえすれば良い治療が受けられるというものではありません。 より良いがん治療は、医療者と患者さん、そのご家族が協力し合って生まれるものだと考えています。 (注※1)分子標的薬…がん細胞の増殖にかかわる分子だけを攻撃し、正常細胞を傷つけないようにがんを治療する薬。 <参考:国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/bunshihyotekichiryo.html> (注※2)免疫チェックポイント阻害剤・・・がん細胞の免疫にブレーキをかける仕組みに働きかけ、免疫の機能をおとさず、体内に元々ある免疫の働きにより、がんを治療する薬。 <参考:国立がん研究センターがん情報サービスhttps://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/immu02.html> 黒田尚子(くろだ なおこ) CFP 1級ファイナンシャルプランニング技能士 CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター 消費生活専門相談員資格 1969年富山県出身。千葉県在住 立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとして、おもに大学関係のシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。 2010年1月、消費生活専門相談員資格を取得し、消費者問題にも注力。また、2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなど、自らの実体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。 ※当記事は2019年2月時点で作成されたものです。 ※医師の診断や治療法については、各々の疾患・症状やその時の最新の治療法によって異なります。当記事が全てのケースにおいて当てはまるわけではありません。

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